「馬が止まらない」「止まってもズルズル動いてしまう」――そんな悩みを抱える乗馬初心者の方は少なくありません。
実は、馬を止める動作は思っている以上に“技術”と“意識”が問われるポイントです。
この記事では、馬をスムーズかつ美しく止めるための基本的な考え方から、具体的なコツ、ありがちな失敗とその対処法までをわかりやすくご紹介します。
停止は「静」の技術|止まるための意識を変えることから始めよう
乗馬において「停止」は、単に“止まる”というよりも、騎手が主導して馬の運動エネルギーをコントロールする高度な動きです。
正しい停止を身につけることで、馬との信頼関係も深まり、全体の騎乗レベルが格段にアップします。
停止の基本|3つの要素を連携させることが大切
停止の動作は、「意識・姿勢・合図」の3つの要素が密接に関わりあっています。
意識|止める前に“止める気持ち”を持つ
馬はとても敏感な動物です。騎手の「止まろう」という心の準備を驚くほど正確に感じ取ります。
ただ漫然と手綱を引くのではなく、まず頭の中で「ここで止まる」と決めることが重要です。
- 止まる場所を事前に明確に決める
- そこで何がしたいか(例えば、呼吸を整える、方向転換するなど)も意識する
この「先に心が止まる」感覚は、ベテラン騎手ほど丁寧に行っています。
姿勢|重心を“前から後ろへ”移す
停止の際、騎手の上半身の使い方が極めて重要です。
- 骨盤を少し立て、重心をわずかに後ろに移動
- 背筋は真っすぐ、肩を後ろに引きすぎない
- 太ももで軽く鞍をホールド
この姿勢の変化は、馬にとって「ブレーキをかけられた」サインになります。
特に体幹が不安定になりがちな中高年の方は、腹筋・背筋の連携を意識してみてください。
合図|手綱・脚・座骨の3点セットで伝える
停止の合図は、手綱を引く動作だけでは不完全です。
脚の力加減と座骨(騎座)の使い方を組み合わせて、馬に「止まって良いよ」と明確に伝えます。
- 手綱は後方に軽く圧をかけて、動きを止める信号を送る
- 同時に脚を軽く締めて、馬の体をまとめる(単に止まれではなく「その場にいなさい」の意味)
- 座骨で地面に沈み込むように座り、「動きを終わらせる」意識を伝える
この“引いて押す”という相反する動作のバランスが、美しい停止の鍵となります。
よくある失敗とその対処法
初心者がよくつまずく点と、その解決策をご紹介します。
手綱を引きすぎて馬が反発する
→ 急ブレーキのように引くと、馬は不快感を覚えます。
特に敏感な馬は、反り返ったり、頭を振って拒否することも。
【対処法】両手をやや後ろ下に引くようにし、手綱のテンションを“ジワッ”とかける意識を持つと、馬が柔らかく応じてくれます。
合図がバラバラで馬が戸惑う
→ 手綱だけ先に引いて、脚と座骨のフォローが遅れると、馬は「止まりたいの? 進みたいの?」と混乱します。
【対処法】停止のときは、3つの合図(手綱・脚・座骨)を同時に軽く出すように練習しましょう。
馬が止まった後に動き出してしまう
→ 騎手の姿勢が緩んでしまうと、馬は「もう終わった」と勘違いします。
【対処法】停止後も3秒ほど姿勢と意識を保ったままキープ。この時間が、馬にとって「完全に止まった」という学習になります。
ワンランク上の停止のためのヒント
呼吸をコントロールする
停止の瞬間に深く息を吐くことで、自分の重心が下がり、馬にも落ち着きを伝えられます。呼吸は合図の一部と考えて使いましょう。
馬との一体感を意識する
「止める」のではなく、「一緒に止まる」という感覚を大切にすると、馬も不自然さを感じず、スムーズに応じてくれます。
中高年ライダーへのアドバイス
40代以降は、筋力や反応速度の変化により、「止まりきれない」「姿勢が崩れる」といった悩みが出やすくなります。
- 腹筋を意識した静かなブレーキ
- 関節に負担をかけないよう体全体を使って止める
- 無理をせず、反応を育てることを焦らない
まとめ|停止は「静」の極意。正しく止まれば、すべてが整う
乗馬における停止は、単なる「ストップ」ではなく、馬との対話の質が問われる重要な技術です。騎手の意識・姿勢・合図が整ってこそ、馬は安心して動きを止めることができます。
まずは「止まろう」と思うことから。日々の練習で、止まることの美しさと難しさを楽しんでみてください。
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