巻乗りとは、馬場での基本的な図形運動のひとつで、馬を円状に誘導しながらコントロール力やバランス感覚を養うための練習方法です。特に馬場2級を目指すような中級レベルのライダーにとっては、必須スキルとも言える動きです。
「ただ円を描けばいい」と思われがちですが、正確な巻乗りはライダーの誘導力・姿勢・脚の使い方が試される非常に奥深い動きです。本記事では、40〜60代のライダーでも無理なく取り組めるよう、理論と実践をわかりやすく解説していきます。
巻乗りで養える5つのスキル
巻乗りの習得によって得られる技術的メリットは多岐にわたります。
馬をコントロールする力
巻乗りは馬を左右均等に誘導するため、ハミ受け・脚・重心移動の連携を意識的に行うことが必要です。これにより、馬の肩を内に入れすぎず、かつ外に逃さないバランスのとれた誘導力が身につきます。
正しい脚の使い方
内方脚と外方脚を正しく使い分けることで、馬の胴体を外へ押し出す感覚や、曲げる感覚を体得できます。脚扶助に慣れていない人にとっても、巻乗りは脚の使い方の基本を学ぶチャンスです。
上半身の安定とバランス
円運動の中では外に振られそうになる力が常に働きます。そのため、巻乗りを通して上体のバランスを保つ訓練ができます。特に中高年の方にとって、転倒リスクを減らすための重要なポイントとなります。
馬の柔軟性を高める
巻乗りによって、馬の内側・外側の筋肉をバランスよく使うことができ、柔軟性が向上します。これにより、馬も動きやすくなり、次のステップ(半巻乗りや肩内など)にもスムーズに移行できます。
視野と感覚の拡がり
巻乗りは“自分と馬の位置関係を常に把握しながら進む”必要があるため、視野の広さや空間認識能力も自然と鍛えられます。
正しい巻乗りの基本ステップ
ここからは、正確な巻乗りを行うための基本的な手順と意識すべきポイントを解説します。
開始位置と進行方向を確認
まず、馬場のどの地点から巻乗りを開始するかを明確に決めましょう。たとえば「B点から左へ巻乗り」など、馬場図を意識して出発点と終着点を明確にすることで、きれいな半円や円が描けるようになります。
この段階で重要なのは「半径約10mの円を描くイメージを持つこと」です。多くの場合、円が大きすぎたり小さすぎたりして不自然な軌道になります。まずは自分の中で“10mってこのくらいだな”という感覚をつかむことが第一歩です。
内方脚と外方脚の役割を理解する
巻乗りにおける脚の役割は非常に明確です。
- 内方脚(進行方向側の脚):馬の胴体を外へ押し出す。
- 外方脚(反対側の脚):馬の後躯を支え、外へ流れるのを防ぐ。
このように、脚で「支える」「押し出す」という異なる役割を同時に果たす必要があります。初心者のうちはこのバランスが難しいですが、脚の位置を少し後ろに引いたり、強弱を変えることで徐々に感覚がつかめるようになります。
手綱で方向づけ、ではなく「誘導」する
巻乗り中によくあるミスが「内側の手綱を引っ張りすぎてしまう」ことです。これは馬の頭だけが内側に入り、体全体が外に逃げてしまう原因になります。
手綱の役割は「馬の動きを止める」ためのものではなく、「方向を指し示す」ためのものです。外方手綱で軽く“壁”を作りながら、内方手綱は指先で優しく誘導する程度に留めましょう。
視線と体の向きが“円”を描く
巻乗りで意外と盲点なのが「視線の使い方」です。多くの人は馬の首や足元ばかりを見てしまいますが、正しい視線は“円の先端”を見ていくこと。これは馬にとっても進行方向のサインになります。
また、体幹も円の進行方向にやや開くように意識します。肩と腰が馬の進行方向に対して“開きすぎず・閉じすぎず”斜め45度を維持するイメージです。
馬の反応を感じながら調整する
巻乗りをしているとき、馬が外へ逃げたり、内に巻き込みすぎたりすることがあります。これは馬の柔軟性や経験、ライダーの姿勢・バランスに原因があります。
ここで大切なのは、「馬を責めないこと」。反応を感じながら、脚と手綱、姿勢を微調整してあげましょう。たとえば、馬が外へ膨らんでいく場合は、内方脚を強める代わりに外方手綱でしっかり方向をキープしてみてください。
よくある巻乗りの失敗例とその対処法
巻乗りの練習では、多くのライダーが共通するミスを経験します。ここでは、特に中高年の初心者〜中級者が陥りやすいパターンと、それに対する具体的な改善策を紹介します。
円にならない/楕円になってしまう
原因
- 開始地点と終点を毎回バラバラにしている
- 視線が近すぎて先を見ていない
- 外方手綱・脚が弱く、馬が外へ流れてしまう
対処法
馬場内に「見えないガイド」を頭の中で作ることが第一歩です。たとえば、巻乗りの軌道上に「A・B・C・Dの4点を経由して円をつくる」と決めるだけでも、円の精度は格段に上がります。
また、外方手綱で“円の外壁”を意識するような誘導が必要です。体のバランスが悪い場合は、まずは巻乗りの直前に正反動でのバランスを数歩確認してから始めると良いでしょう。
馬が外に逃げてしまう
原因
- 外方脚のサポート不足
- 内方手綱を引きすぎている
- 馬の柔軟性不足
対処法
まず外方脚の意識を高めましょう。足の位置を通常よりもやや後方に置き、軽く圧迫して“壁”を作るようにします。
馬自体が外に逃げやすい体の癖を持っている場合は、巻乗りを始める前にウォーミングアップとしてサイドレイン(横木)を使った運動を取り入れると良いです。
手綱に頼りすぎる
原因
- 馬のスピードを手綱だけでコントロールしようとしている
- ライダーの体幹が不安定で馬に任せてしまっている
対処法
「手綱は方向を示すもの、スピードは体で調整する」ことを意識します。特に手綱を引くクセがある方は、指先で軽く握るように持ち、意図的に力を抜く時間を作ってみてください。
また、正しい姿勢を維持しながら“重心を馬の中心に置く”練習を繰り返すことで、手綱への依存は減っていきます。
自分の姿勢が崩れる
原因
- 円運動のなかで体が外へ傾いている
- 上半身が固まりすぎていて反応できない
対処法
乗馬前に軽く体幹トレーニングを行い、重心を意識することが有効です。また、円の中心を“体の内側で見続ける”ような意識を持つと、外へ振られにくくなります。
馬がスピードを上げてしまう
原因
- ライダーが前のめりになり、無意識に推進してしまっている
- 馬が興奮しやすいタイプである
対処法
まず、ライダー自身が呼吸を深くゆっくり行い、自分の緊張をほぐすことが先決です。興奮しやすい馬の場合、巻乗りの直前に歩様を1段階落として「待つ姿勢」をつくっておくと効果的です。
【自宅でできる!】巻乗りに効くトレーニング・ストレッチ法
騎乗時のバランスや脚の使い方は、実は自宅でもある程度鍛えることが可能です。以下は、巻乗りに特化して効果があるトレーニングとストレッチの一例です。
骨盤まわりのストレッチ
巻乗りでは骨盤を中心に身体を回転させる感覚が重要です。開脚や股関節を広げるストレッチ、骨盤前傾・後傾の動きを繰り返す体操などが効果的です。
内転筋強化トレーニング
馬の胴を包むように脚を使うためには、内転筋の強化がカギとなります。椅子に座ってクッションを太ももで挟み、数十秒間力を入れ続けるだけでも立派なトレーニングになります。
バランスボールを使った体幹練習
座った状態で両手を広げ、目を閉じてバランスを保つことで、乗馬に近い体感覚を鍛えられます。上級者はこの状態で骨盤だけを左右に動かす練習もおすすめです。
鏡を使った姿勢チェック法
自分の肩・腰・膝がまっすぐ揃っているかを確認しながらの姿勢練習も非常に効果的です。週に数回の実施で、騎乗時の安定感が格段にアップします。
巻乗りの応用:半巻乗り・三湾曲・肩内への展開
巻乗りを習得すると、次のような高度な演技や練習につながっていきます。
半巻乗り(Serpentine)
巻乗りの半円分だけ行い、反対方向へ戻る動き。馬の左右バランスを確認したり、切り返しでの柔軟性を高めたりするのに有効です。
三湾曲(Three-loop serpentine)
巻乗りの応用で、馬場を3つの曲線に分けて蛇行運動する技術。視野のコントロールや左右の脚の使い分けに磨きがかかります。
肩内(Shoulder-in)
巻乗りで身につけた“内方脚で馬を曲げる”感覚をさらに活かして、肩を内に入れながら直進する高度な演技につながります。これは馬場馬術2級以上では必須の技術です。
まとめ:巻乗りは「基礎」であり「芸術」
巻乗りは、一見すると単純な円運動ですが、その中には乗馬の技術の本質がすべて詰まっています。馬との対話・姿勢・脚の使い方・視線の向け方…。これらを一つひとつ丁寧に見直すことで、巻乗りの美しさは確実に高まります。
40〜60代という年齢は、急激な運動変化には向いていないかもしれませんが、そのぶん“丁寧な意識と積み重ね”で上達が期待できる世代でもあります。今回ご紹介したコツや練習法を、日々のレッスンの中で少しずつ取り入れてみてください。
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