軽速歩(けいはやあし)は、乗馬の基本にして奥が深い技術です。
特に40〜60代から乗馬を始めた方にとっては、「上下に跳ねるだけ」「膝が痛い」「テンポが合わない」など、悩みの種になりがちです。
この記事では、中高年ライダーに合った“疲れにくく美しい軽速歩”のコツ、上手く立てない理由と解決策について、ステップごとに分かりやすく解説します。
軽速歩とは?まずは基本の理解から
まずは、軽速歩がどんなものかを正しく理解しておくことが、上達の第一歩です。
軽速歩とは、馬が2拍子の速歩をしている間に、騎手が馬の動きに合わせて「立つ・座る」を繰り返す乗り方です。これにより、馬と自分の両方にかかる負担を軽減し、動きのリズムを整えます。
軽速歩が安定すると、馬の動きが格段にスムーズになります。
軽速歩がうまくいかない主な原因
「軽速歩が続かない」「上手く立てない」「どうしてもバランスを崩してしまう」——そんな悩みには、いくつか共通する原因があります。
立つタイミングが合っていない
馬の「外方前肢(外側の前脚)」が地面に出る瞬間に立ち上がるのが基本です。
(言い換えると、内側の前脚が地面につくタイミングに立ち上がる。)
これがズレていると、リズムが崩れ、バランスを取りにくくなります。
対策: 外方前肢の動きをよく観察し、最初はインストラクターにチェックしてもらいましょう。
立ちすぎている/座りすぎている
「大きく立とう」と意識するあまり、鞍から立ちすぎてしまう人が多いです。
軽速歩は「浮く」よりも「骨盤を少し前に転がす」ような感覚が正解です。
対策: 太ももと膝下の軽い接地感をキープしながら、上下ではなく“前後”の動きを意識。
体の軸がぶれている
姿勢が崩れていると、軽速歩のたびに無駄な力が入り、疲れやすくなります。
対策: 骨盤を立て、頭のてっぺんが空から吊られているイメージで上体を保ちましょう。
中高年ライダー向け:軽速歩の5つのコツ
ここからは、特に40代〜60代の方にとって無理のない、美しく乗れるための「軽速歩の具体的なコツ」をご紹介します。
骨盤主導で動く
軽速歩のコツとして真っ先に覚えておきたいのが、「立ち上がる」のではなく「骨盤を前に転がす」という意識です。
特に中高年ライダーの場合、若い頃のように脚の力だけで素早く動くのは難しいことも多いです。
そのため、力に頼らず、骨格の自然な動きを使って軽速歩するのがベストです。
具体的には、鞍に座った状態から軽く前傾し、骨盤を前にスライドさせるイメージで体を動かします。
このとき太ももと内ももで鞍を軽く支えつつ、上半身の力は抜いておくのがポイントです。
慣れてきたら、馬のリズムに合わせて「前へ」「少し後ろへ」と骨盤でリズムを刻むようにします。
骨盤主導で動けるようになると、全身の動きが連動しやすくなり、無理なく馬に合わせた軽速歩ができるようになります。
リズムを口に出して唱える
速歩のリズムを感じ取るのが難しいと感じる人は多いです。
特に初級〜中級レベルでは、馬の動きについていくのに精一杯になってしまいがちです。
そんなときに役立つのが「リズムを口に出す」ことです。
「ポン・ポン・ポン」とか「イチ・二ー・イチ」とか「立つ・座る・立つ」とか、なんでもいいので声に出すことで、自分の体と馬の動きのテンポをシンクロさせやすくなります。
実際にプロのインストラクターでも、生徒に「言葉にしてリズムを感じて」と指導することがあります。これは脳と身体の動きを連動させる効果があるためです。
馬によって速歩のテンポは異なるため、「ポン・ポン・ポン」なのか「トン・トン・トン」なのか、自分が感覚的にしっくりくる擬音を探してみてください。
大事なのは“感じる”こと。そしてそのリズムを体の動きにつなげていくことです。
無理に力まない
軽速歩で体がカチコチに緊張してしまう方は少なくありません。
特に、「失敗したくない」「うまく乗りたい」と思うほど、体がこわばって動きがぎこちなくなってしまうことがあります。
乗馬においては、「脱力」がとても大切です。
脱力といっても、だらんとするわけではなく、必要な部分だけを適度に使い、余分な力を抜くという意味です。
これは中高年にとって特に重要で、関節や筋肉への負担を軽減し、より長く乗馬を楽しむための秘訣でもあります。
そのために、まずは深呼吸をして肩の力を抜きましょう。
次に、上半身は“糸でつられているような感覚”を持ちつつ、下半身だけを馬にゆだねていくような気持ちで。
乗馬はスポーツであると同時に、呼吸と重心を使った“禅”のような側面もあります。
力まない乗り方をマスターすれば、馬も自然と安心してくれるようになります。
膝に頼りすぎない
軽速歩でバランスを取ろうとするあまり、膝で鞍を強く挟んでしまうことがあります。
これは一見安定しているように思えますが、実はバランスを崩しやすくなる原因でもあります。
なぜなら、膝が固定されることで股関節が自由に動かず、骨盤の動きも制限されてしまうからです。
中高年の方は、加齢に伴って膝や股関節の可動域が狭くなっていることもあります。
そのため、膝ではなく「太ももの内側全体」を使って鞍を支える意識が大切です。
このように支えると、筋力だけに頼らず、骨格で支える安定感が生まれます。
また、膝が痛い・しびれると感じる場合は、鞍や鐙(あぶみ)の長さが合っていない可能性もあります。
無理に我慢せず、インストラクターに相談して調整してもらいましょう。
乗馬は“我慢するスポーツ”ではなく、“快適に続ける工夫をするスポーツ”です。
自宅でできる骨盤トレーニングを活用
乗馬は馬場の上だけが練習の場ではありません。
むしろ、日常生活の中でできるストレッチや軽いトレーニングこそが、軽速歩の上達に直結します。
特に骨盤の柔軟性と体幹の安定性は、軽速歩の動きと深く関係しています。
おすすめは、バランスボールや骨盤クッションを使ったトレーニングです。
たとえば、イスに座った状態で骨盤を前後・左右にゆっくり回すだけでも効果があります。
これにより、普段あまり使わないインナーマッスルが刺激され、馬上での動きが格段に滑らかになります。
また、週に数回、3〜5分でも良いので習慣化することが大切です。
朝の支度前やテレビを見ながらなど、生活の中に「骨盤トレーニングの時間」を組み込むだけでOKです。
軽速歩ができるようになると、世界が変わる
軽速歩を身につけることで、乗馬の感覚は劇的に変わります。単に“乗っている”だけでなく、馬と“対話する”感覚を得られるでしょう。
軽速歩を身につけると、馬とのリズムが合いやすくなり、信頼関係もより深く築けるようになります。また、疲れにくく、長く騎乗を楽しめるようになります。
まとめ
軽速歩はシンプルながら、体の使い方・リズムの捉え方・意識の持ち方が問われる奥深い技術です。中高年の方でも、ポイントを押さえていけば、無理なく美しい軽速歩が可能になります。
軽速歩が上達すると、乗馬が何倍も楽しくなります。
地道にしっかり練習しましょう。
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